強皮症について– about SSc –

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全身性強皮症の特徴

全身性強皮症は皮膚だけではなく全身性の自己免疫疾患です。

全身性強皮症の治療法は確立されていませんが、治療には基礎治療と対症療法があります。基礎治療は副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤・生物学的製剤などで病気全体の勢いをコントロールします。さまざまな症状に対しては、それぞれの対症療法薬があります。近年、強皮症の治療はめざましく進歩しており、新しい薬も増えています。
疾患の基本情報は、難病情報センターのサイトから「全身性強皮症」を検索して確認しましょう。 https://www.nanbyou.or.jp/ 

「診断された頃は説明を受けても文章を読んでも、ほとんど理解できなかった」と多くの患者さんが話します。

ここでは大事な3つのポイントを説明します。

強皮症患者さんの3つの約束①自分の抗体を知る!②年一回は心エコー③早期診断・早期治療

Ⅰ.自分の抗体を知る

強皮症の進み方には一定の順番があり、「免疫異常⇒血管障害⇒線維化」という順番で進みます。そのため、抗体の種類、どのタイプの強皮症であるか(病型)を知ることが大切です。

1.抗トポイソメラーゼⅠ抗体

  • 強皮症の30~40%。重症例が多いが、全員が重症というわけではなく軽症例もある。
  • 強皮症が確定してない場合は、強皮症に関連した変化、特異的な変化をチェック。
    確定していれば、活動性を評価し、病勢を把握する。
  • 抗トポイソメラーゼⅠ抗体は、間質性肺疾患の諸検査の評価を見て治療方針を決める。
  • 6ヶ月~1年おきにCT、呼吸機能検査が必要(ケースによっては3ヶ月おき)
  • びまん皮膚硬化型では間質性肺疾患がなくても5年間は毎年CTが必要。
  • 定期的に検査を行い、重症度をしっかり評価する。

2.抗セントロメア抗体

  • 強皮症の30~40%で、基本的に症状は軽い。
  • 毛細血管拡張・石灰沈着を来たしやすい。
  • 約1%に肺高血圧症を合併(数年を経て発症する)。見落とすと命に関わるので、強皮症の症状が軽いケースでも年1回の心エコー検査・呼吸機能検査・血液検査(BNP含む)は必要。
    肺高血圧症はゆっくり出てくるので年1回の心エコー検査で十分。
  • 約1%は下肢に重症壊疽を起こすこともある。そのため指先の小さな潰瘍も侮らず、重篤な壊疽を起こさないように、小さなうちにきちんと治療する。
  • 潰瘍ができやすい人は肺高血圧症になりやすい傾向がある。ボセンタン水和物(トラクリア)は肺高血圧症にも皮膚潰瘍にも効くため、潰瘍がある段階で使えば肺高血圧症の治療にもなる。

3.抗RNAポリメラーゼⅢ抗体

  • 強皮症の6%。抗核抗体出現から診断までが短い。
  • ステロイドがよく効くが、ステロイドによる腎クリーゼを起こしやすくなるためバランスが大事。15mgを半年使うと腎クリーゼのリスクが高くなるため、半年以下で減量が必要。
  • 腎クリーゼに注意。突然の悪性高血圧と進行性の腎機能障害が特徴で、「上の血圧が180㎜Hg以上、下の血圧が110㎜Hg以上」など急激な上昇があれば「迷わず、すぐに」主治医に連絡。毎日(できれば同じ時間に)血圧を測ることが大事。
  • 悪性腫瘍の合併が30%にあり、そのうち半数は診断時に見つかる。しっかりとした検査が必要。悪性腫瘍があると免疫抑制剤が使えないが、ステロイドは一定量使える。
  • 皮膚硬化が早い場合は後からレイノー現象が現われる。これは進行が早い人の特徴で、皮膚硬化が悪くなる可能性が高い。

4.抗U1-RNP抗体

  • 炎症を伴う方が多いので、ステロイドが効く患者さんがいる。全身性エリテマトーデス・皮膚筋炎の要素があるので、肺高血圧症が出てきたら見極めていくことが大事。

※これ以外の稀少抗体や「抗体なし」の場合は、主治医に説明してもらいましょう。

Ⅱ.予防行動

1.できるだけレイノー現象を起こさないように
レイノー現象は、寒い環境、冷たいものに触れる、精神的な緊張状態などで手指が蒼白~紫色になる症状です。
全身性強皮症患者さんの95%に見られる症状で、痛みやしびれの症状を伴うこともあるため、QOL(生活の質)を低下させ、日常生活に支障を来します。対症療法薬があるので、治療について主治医と相談してみましょう。
特に寒冷時には症状が悪化するので、肘(膝)、手首(足 首)をカイロ等で温めるなど、季節を問わず身体全体を冷やさないようにしましょう。

Ⅲ.早期診断・早期治療

自己抗体とは自分に向けられたミサイルです。本来異物を攻撃する抗体(ミサイル)とサイトカイン(爆弾)が自分の体を自己と判断せず、自分に向かってミサイルを発射することで体を破壊してしまいます。早く治療を始めれば進行を抑制することができるので、「早期診断」が重要です。
病型から今後の病状をある程度予測できるので、各種検査結果の説明を受けたら、治療方針について主治医とコミュニケーションを取りましょう。

1.Window of Opportunity (治療の好機)とは?

強皮症に代表されるような不可逆的な臓器障害を残す疾患においては、「この時期までに治療すれば、治療効果が高い(不可逆的な変化に至る頻度を下げることができる)」という目安があり、強皮症に伴う間質性肺疾患については「レイノー現象以外の強皮症関連症状が出現してから1年半以内に免疫抑制療法が開始されている場合(1年以上継続が条件)は進行性の肺線維化が有意に抑制される」という日本人のデータが発表されました。
強皮症患者さんで進行性の肺病変がある患者さんにおいては、「1年半以内に治療開始」がキーワードになります。

2.年に1回心エコー

肺高血圧症を見逃すことがないように、病型に関わらず年に1回の心エコーが必須
1)びまん皮膚硬化型全身性強皮症
発症5~6年以内に皮膚硬化の進行及び内臓病変が出現するため、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要。
2)限局皮膚硬化型全身性強皮症
皮膚硬化の進行はなく(あってもごく緩徐)、肺高血圧症以外重篤な内臓病変を合併することは少ない。

【診断の観点1】

医師はレイノー現象のここを見る・患者はここを伝える

  • 片側性か両側性か
  • 色調 白(虚血)紫(チアノーゼ)赤(再灌流)の三相。
  • 白~紫、白~赤の 2相、または1相
  • 足にも出るか
  • 痛みやしびれを伴うか
  • 親指に出るか(親指に出ると重症が多い)
  • レイノーが出ていない時も冷たいか
  • 手の色が赤いか

※レイノー現象出現時、携帯カメラで撮影しておき診察で医師へ見せると良いでしょう。

【診断の観点2】

キャピラロスコピーでわかる活動性
毛細血管を調べれば重症度がわかり、爪先を詳しく見れば全身の血管がわかります。キャピラロスコピーは血管の構造異常、血流速度がわかるので進行の有無がわかります。

※以上は、2024年2月26日、5月8日に行われた「強皮症患者さん向けセミナー」(東北大学病院皮膚科教授 浅野善英先生の講演要旨)を基にまとめました。

※強皮症ハンドブック2023年度版の入手方法はこちら
※個々の患者さんの治療や病状管理については、必ず主治医と相談するようにしてください。

2024.8.12 更新

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