ピア・サポート研修を開催しました!

支える側・支えられる側の社会学

「ピア・サポート」はLinkageの活動の柱です。
「まずはピア・サポート研修から」ということで、発足から1ヶ月余りの7月24日(水)19:30~、富山大学人文学部教授 伊藤智樹先生を講師に迎えて研修を行いました。せっかくの機会なので、連携する他団体のみなさんにも声をかけ、合計7団体合同の研修会となりました。

ピア・サポートとは「ある人が同じような苦しみを持っていると思う人を支える行為、あるいは、そのように思う人同士による支えあいの相互行為」であり、互恵性があります。
研修のキーワードは「ナラティブ・アプローチ」(相談相手や患者などを支援する際に、相手の語る「物語(narrative)」を通して解決法を見出していくアプローチ方法)。
難病は、「治る」(元に戻る)ということがありません。
治らない自分が、どのような物語を紡いでいくのか?
そこで「語る」ということが意味を持ち、語るには聴き手が必要となり、「語ること・聴くこと」によるピア・サポートが生まれます。

■講演要旨
「聴く」ことの重要性
・ナラティヴ・アプローチによって、ピア・サポートは、それぞれの人が物語を形成していくプロセスととらえられる。
・特に発症・再燃、あるいは生活上の変化に際して、物語は混沌としたものになりがち。しかし、そのような混沌とした物語でも、まずは吐き出せる場にアクセスできることによって、人は再び自分の物語を形成しうる。ピア・サポーターは、このような「まずは吐き出せる場」を構成する一部分となりうる潜在性をもつ。なぜなら、混沌とした物語は一般的な聞き手にとっては「重い話」だが、ピア・サポーターにとっては「どこか身に覚えのある話」だから。
・したがって、ピア・サポートは「変えてあげる」とか「導く」といったイメージでとらえるべきではない。むしろ、本人が「変化に開かれる」ことによって希望につながる点こそが根本的。
・ピア・サポートは、ただ黙って傾聴するだけというわけではない。なぜならピア・サポーターは、それぞれの物語を持っているから。その物語に含まれる筋や、主人公のキャラクター、あるいは物語の構成要素となる言葉などが相手の記憶・印象に残り、何らかの影響を与えている(ことが後でわかる)可能性がある。
・ ただし、それらの物語は、いつでも相手の心に響くとは限らない。本来は、「聴く」ことを先行させたうえで、関連のあるテーマやトピック、あるいは相手の興味に応じて差し出されるもの。
「私の物語」と「あなたの物語」とは(おおいに共通点もあるだろうが)異なる主人公が生きる物語であり、それぞれの物語を作るのは語り手自身に他ならない(このことを明確に認識できるのが「物語」概念の利点)。

参加者からの感想

■同じ悩みを持つ仲間にサポートしてもらう
「物語」を語ることの意味が良くわかりました。
私は診断当初から身近な人たちによく話をしていました。話すことで難病というものを受け入れ、心が落ち着いていたのかなと思いました。
しかし、病状が悪くなってからは不安が大きくなる一方でした。
そんな時オープンチャットに入り、たくさんの情報を得て、実際に同じ病気のみなさんとお会いした事で、また落ち着きを取り戻しました。
まさにこれがピア・サポートの成せる技だと思いました。
同じ悩みを持つ仲間にサポートしてもらうことで、「わかってもらえる、適切なアドバイスが貰える」というメリットの大きさに改めて気づきました。
そして、このコミュニティの中で、折に触れて「物語を語らせてもらっている」とも思えました。大変勉強になりました。

■さまざまな支援を使いながら生きる
「病いの語りは、その病気が治っていくのであれば期待されるのは「回復の物語」であり、(他の難治性疾患も含めて)難病はそれが叶わないから本人のつらさはもちろん、語りづらく、見えづらく、共有されないものになってしまうのだ…と実感させられました。
私が友人に未だ病気のことを話しづらいことや、「人に話すと心配をかけるので話しづらい」と悩まれる部分にも通じるのかなと思い、いろいろなことが腑に落ちるような体験でした。
伊藤先生の著書『支える・支えられる側の社会学』(晃洋書房 2024年 全身性強皮症患者会の事例において、局所的に物語の共有が方法として機能していることを分析)には、さらに希望を見いだすことになりました。
「治らない」という絶望の中においても、人間の力強さと希望をさらに現れやすくするためには、社会の側がある程度成熟している必要があります。(中略)それは、人間同士の出会いとコミュニケーションによってもたらされる精神的な変化の可能性です。なぜなら、そうした変化を伴うことで初めて、その人自身が存在することへの基盤的な自信を手放すことなく、さまざまな支援を使いながら生きるということが可能になっていくと考えらえるからです」(p.1)
 オープンチャットでの仲間との出会い、支え合い、励ましあいが、まさにそれなんだな…とピア・サポート、またセルフ・ヘルプグループの存在意義を痛感させていただきました。

■いつか患者会でもピア・サポートを
何年も前に“ピア・サポーター養成講座“に参加してから、いつか患者会でもピア・サポートができるような環境を作りたいと思っていました。今回の伊藤先生のお話の中で、特に“患者さんの物語“についてのお話がとても心に響きました。
みんなそれぞれの物語がある‥。これからたくさんの物語に出逢えるような、そんなピア活動をしていきたいと思います。

■病気が違っても応援&助け合いを
職場の同僚が全身性強皮症と2年前に診断されました。
今はまだ不安でいっぱい。
家族や友人にも話せない。
会社にもシークレット。
私自身も乾癬性関節炎で、リウマチ膠原病内科で治療していることから打ち明けてくれました。
強皮症とはどんな病気?
一緒に働く私に出来ることはある?
という思いで参加させて頂きました。
強皮症を受け入れ、前向きに参加されている方のお話を聞くことができました。
いつか同僚もこんなふうになれたら〜
病気は違いますが応援&助け合いをしていけたらと思います。
ありがとうございました。

「吐き出せる場」の一つがオープンチャットです。
不安や悩みを「溜め込まないように」吐き出すと、誰かが応えてくれます。
そこで「語る・聴く」が成立します。
オープンチャットの投稿を読んでいるだけでも気づきがあり、読み手にも影響を与えます。
「ピア相談室」が、さまざまな物語を紡ぐ場であるために、今後も研修を積み重ねていきたいと思います。

※参考
富山大学人文学部編「人文知のカレイドスコープⅦ」(桂書房)所収
伊藤智樹「自己を語れるまでの道のり:難病患者の就労を例に」(第4章)
一人の難病患者さんの例を取り上げ、職場に合理的配慮を求めることが最終的にできるまでのプロセスに、配慮を求めて使用者側と交渉することの難しさ、特に当事者の側に生じる葛藤・抵抗感、及びそれを乗り越える上での他者とのコミュニケーションが有効であったことを論じている。

  • URLをコピーしました!
目次